第16回 初夏の章
2020年07月19日
お題:小鳥、さえずり、刺繍、五月雨、鏡月
目が覚めて、背伸びをして歌うように囀る小鳥たちに挨拶をしてそれからベットから抜け出す。
これが私の毎朝。
けれども今日は少し違うようだ。
たっぷりと水分を含んだ雲はこれからもずっと降ってやろうという気概を感じる。
これが五月雨というやつか。
それでもやることは変わらない。生憎私の仕事に天気は影響されないのだ。
私の仕事は刺繍。
生地を選び、型を取り、張り合わせ、そうして形になったものに最後の仕上げを施す。
ちくちくこつこつこれを来た人が幸せになりますように、そんな思いをこめて一針一針丁寧に。
こんな地味な作業だけど私はとても気に入っている。
これを着る人はどんな人だろうか
「ふぅ」
やっと一息つく頃には空には月が見えていて朝から見た雲はどこかへ行ってしまったようだ。
鏡のように水面に映る月を眺めてもう一息と仕事に勤しむのだった
スズキ 355